現在、自動車はWireless KeyやETC、GPSなど多くの通信で外部と繋がっており、Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(シェアリング&サービス)、Electric(電気自動車)のCASEを制す企業が2020年代以降の自動車業界を制す、と言われています。そのうちの一つである自動運転システムの進化に伴い、車内で生じる通信量は確実に増加しています。自動車の通信先も複雑化しており、今後も増加する通信に対してクラウドが着目されています。本記事では、自動運転と求められるクラウドサービスについて解説していきます。
自動車の通信先は、V2X通信種別として大きく6つ(V2V,V2I,V2P,V2N,V2D,V2G)に分類されます。まず、それぞれの通信について簡単に説明します。
このうち、本記事ではクラウドサービスを介して通信を行うV2Nに着目することとします。まず、ネットワークという通信相手に対して、どのような通信方式で通信が実現されるのでしょうか。V2Nの中でも通信中継点により異なる通信方式を取ります。
このように、自動車から上記の通信方式で通信中継点を介してインターネットに接続し、通信相手のクラウドサービスと接続することができます。それでは、クラウドサービスと接続するV2N通信によりどのような機能を実現できるのでしょうか。具体的に、以下の内容を実現することができます。
このように、自動運転では膨大なデータ量を収集することができ、それを元に新機能として便利に自動車を利用することができるようになります。この収集した膨大なデータ量を収集/一時保管するために着目されているのが、クラウドサービスです。クラウドサービス上でこれらの情報を管理することで、周辺の渋滞情報など各種ナビゲーションを含む上記の情報が指定したユーザ
間で簡単に共有できるようになります。ただ、ネットワーク経由による情報処理/伝送遅延や必要情報取捨選択利用のしくみ・機能の開発、対象サービス規模拡張に見合ったサーバー能力・通信容量準備がV2Nによる情報利活用の課題として挙げられます。それでは、これらV2Nの課題に対して日本政府はどのような取組を実施しているのでしょうか。
V2N情報提供のしくみを実用化し、社会実装に向けた課題への対応策と効果を検証するため、日本政府は社会実装を想定した実験環境を東京臨海部に整備しています。この実証実験の期間は2021年11月~2022年3月末で、広域公衆ネットワーク(V2N)を通じた新たな情報生成と配信実験環境を東京臨海部に構築し、民間プローブ情報から車線別の渋滞末尾情報を生成しその情報を自動運転車に通信したり、広域公衆ネットワーク(V2N) を利用した信号情報提供を東京臨海部と地方部で検証したりしています。後者については、現在の正確な灯色情報や予定信号情報を得て、急減速や停止等のない制御に活用すべく、2024年から実用化を目指しています。そして、国内での実証実験や取り組みに関しては、内閣府が推進している「戦略的イノベーション創造プログラム」とITS情報通信システム推進会議で詳しく確認できます。
では、日本で活用されているクラウドサービスの例には何があるのでしょうか。実際の例を挙げながら説明いたします。
実際にどのように活用されているか、二つの事例を紹介します。
まず、濃霧の中でも安全に走行できる運転補助システムです。大分県、NTT コミュニケーションズ株式会社、株式会社オートバックスセブン、大分交通株式会社、株式会社 NTT ドコモ九州支社は、2020 年に日本で初めて濃霧の高速道路でも安全に走行できる運転補助システムを確立のための実験を実施しました。濃霧の中を走行中の車両に搭載したカメラで撮影した画像を、ドコモのクラウド環境へ送信しクラウドとAIを用いた画像認識エンジンで前方の車両・白線・ガードレールを認識させ、安全走行に必要な情報を車両のヘッドアップディスプレイに表示することで、ドライバーへ提示しました。
次に、セキュリティ監視クラウドです。2018年から、パナソニック株式会社とトレンドマイクロ株式会社は今後普及が見込まれる自動運転・コネクテッドカーに対するサイバー攻撃を検出および防御するサイバーセキュリティソリューションを共同開発しています。これにより、アクセルやブレーキなど自動車の走行を制御するコンピュータであるECUおよびカーナビなどの車載インフォテインメント機器(IVI)や自動車への情報提供サービスであるテレマティクス機器に対するインターネット経由のサイバー攻撃を検知・防御するソリューションを開発し、安全な自動運転・コネクテッドカーの実現を目指しています。具体的に説明すると、以下の通りとなります。
この③から⑥はクラウド上で実施され、これがセキュリティ監視クラウドです。
このような技術の発展と共に重要視されているのが、技術を安全に活用するためのセキュリティです。2022年2月、車載部品メーカーである小島プレス工業で攻撃者にリモート機器の脆弱性をつかれ、社内ネットワークに不正アクセスされました。そののち、システムのデータが暗号化されて身代金を要求するランサムウェア攻撃を受け、システム障害に陥りました。被害は小島プレス工業だけでなく、この取引先であるトヨタ自動車は部品の不足のため14工場28ラインを停止することとなりました。
今後、自動車業界がサイバー攻撃の標的になりやすくなっていくことが想像できます。それは、ネットワークに繋がった自動車が社会インフラとしての重要性を高め、社会へのインパクトが大きくなったり、ランサムウェア攻撃の標的としてより高額の身代金を要求できたりするためです。
車両ライフサイクル全体でのセキュリティ活動は、ユーザを攻撃による被害から守るため、そして車両メーカーにとって最小の有効な対策を取ることで被害を避け利益を最大化することを実現できます。技術を実現し、新しい価値を創出する未来へ向かうために、サイバーセキュリティは必須であるという位置を確立しています。