昨今、多くのメディアが各国の自動運転技術事情を取り上げているが、その”自動運転”は自動車に搭載されるECU(電子制御装置の総称。Electronic Control Unitの頭文字と取る)や様々なセンサーが複雑な道路状況を適格判断する、言わば”無人”運転を指しています。トヨタ自動車株式会社が掲げている”すべての人に移動の喜びを”を叶えてくれる可能性のある技術です。
一方、今回記載する遠隔型自動運転は、1つの車両として見ると”無人”運転であることは前述の”自動運転”と変わりはないが、制御の主役は”人”になります。例えば制御センターのような遠隔の場所に運転者がいて、車を操作している場合が”遠隔型”自動運転になります。同じ”無人”でも、自動運転と遠隔型自動運転は目的や用途が異なり、また必要な技術にもそれぞれの色が出てきます。今回は、遠隔型自動運転にフォーカスを当て、その技術やメリットおよび国内事例を記載したいと思います。
弊社の技術を適用した遠隔型自動運転システムを開発・提供しております。オペレーターが直接に車両を制御する方法および状況に合う自動運転のルールを提供することで間接的に運転をサポートする方法を提供し、安全な遠隔型自動運転をサポートしています。詳しくはこちらをご覧ください。
登場背景は自然災害などの有事の際の対応を早くしたいことが挙げられます。災害の多くの場合、自衛隊などのプロフェッショナルは即日現場へ行き、適切な支援が可能ですが、それ以外のほとんどの方は立ち入りを禁止され、支援に向かうことが困難です。その理由は余震などに伴う二次被害の抑制です。
そこで注目されているのが遠隔型自動運転です。”無人”である利点を最大限活用し、迅速な支援が可能になります。通常では支援する側が逆に支援される側になってしまわないよう、被災地までの被害状況(道中の交通状況やインフラ状況など)を確認した上で支援を開始します。しかし”無人”であれば、確認事項もより少なく抑えることができ、支援開始までの日数が各段に早くなります。
以上のような自然災害の支援に代表されるように、遠隔型自動運転の必要性は技術の進歩と共に、年々増加しています。
複雑にシステムが絡み合う現在の自動車において、遠隔操作を安全に確実に実施するためには、多くの技術要件があります。今回は①遠隔から確実かつタイムリーに情報と届ける通信技術と②遠隔からの操作になくてはならない映像技術について記述します。
まずは、通信技術です。代表されるものが”V2X(Vehicle to X)”で、車両と様々なものとの間の通信や連携を行う技術のことを指します。車に様々な機器や部品を搭載し、常時コンピュータネットワークに接続させることにより、運転に関する利便性を向上させます。
V2Xには大きく4種類のカテゴリーがあります。
・V2Vは、「Vehicle to Vehicle」の略で、車両同士が通信を行うことを指します。
・V2Iは、「Vehicle to Infrastructure」の略で、車両と道路周辺のインフラ機器との通信を行う技術です。
・V2Pは、「Vehicle to Pedestrian」の略で、車両と歩行者との通信を行う技術です。
・V2Nは「Vehicle to Network」の略で、ネットワークに関する技術です。
前述で通信技術について記述したので、本章ではV2Nを抜粋して簡単に説明します。
V2Nは、車そのものをインターネット端末として見なし、車の制御ソフトや地図情報の更新、エンターテインメントコンテンツの配信といったサービスを受けることができます。特に、リアルタイムの交通情報が受信できるのは、交通面や運転面において大きなメリットになります。
次に映像技術です。遠隔監視者が車両制御を適切に判断でき、かつ負担を感じない映像表示装置とその撮影装置。車両周辺映像を活用した地図更新情報を習得できる技術が不可欠です。晴天時の光の反射や雨などの悪天候時に水滴がカメラに付きにくい筐体形状の技術も重要なものの1つです。
このように、遠隔型自動運転には様々な技術が結集しています。
自動運転システムは現状万能ではなく、事故や故障を100%回避できるものはまだ開発されていません。公道や被災地を走行する以上もらい事故をはじめとする予期せぬ事態に遭遇することも考えられます。こうした際に、車内にオペレーターがいない自動運転車の管理者サイドは、直ちに対応できないばかりか現場で何が起こったのかを把握することも難しい状況がほとんどです。
こうした際に活躍するのが遠隔監視システムになります。車載カメラなどの映像を遠隔地の制御センターに送信することで、現在自動運転車が置かれている状況や車内の様子などをリアルタイムで知ることができます。各システムの作動状況なども把握することが可能で、有事の際以外においても、自動運転車が立ち往生した際の原因究明などを行うことにも寄与できます。多くの場合、遠隔監視とともに遠隔操作機能も備えており、遠隔地から現場の状況を把握し、必要に応じて車両を遠隔制御することができます。
もう1つの利点は、1人が複数台の自動運転車両を管理可能にできることです。効率的かつ効果的な遠隔監視システムを構築することで、1人のオペレーターが同時に複数の自動運転車を管理できることになります。遠隔監視とは言え、1人が1台を管理する状態では「無人化」のメリットが大きくそがれることになるので、安全性を担保しつつ、いかに効率的なオペレーション体制を確立するかが自動運転事業のカギになります。
将来、自動運転タクシーなどは数十台、数百台規模で運行される可能性が高いが、そうした際により多くの車両を同時に監視可能なシステムの構築が必須になってきます。
遠隔監視・操作システムによるレベル3を国内で初めて実用化したのが、福井県永平寺町に導入されている「ZEN drive Pilot」です。2021年3月に遠隔監視・操作型の自動運行装置として国内初となる認可を受け、同月からえちぜん鉄道の廃線跡地を活用した「永平寺参ろーど」の一部区間でレベル3走行を行っています。車両はヤマハ発動機のゴルフカーをベースにしたもので、最大時速12キロで走行し、あらかじめ道路に敷設した電磁誘導線や位置情報などを記録したRFIDタグを活用し、GPSを交えながら走行経路と自車位置を認識します。また、搭載したカメラやLiDARなどで周辺の監視を行なっています。
遠隔監視・操作システムは車内外を監視でき、遠隔監視・操作室にいる1人のドライバーが3台の車両を監視・操作することができます。全ての車両が作動継続困難な場合を除き、常時監視が不要となり、遠隔ドライバーの負担は軽減され、遠隔ドライバーの状態を検知するシステムも実装されています。なお、同様のシステムは沖縄県北谷町の観光地でも導入されている。こちらは1人の遠隔ドライバーが2台を運行しています。
遠隔型自動運転システムは、今後の自動運転技術の進化において重要な役割を果たすと考えられていますが、その実用化に向けてはまだいくつかの課題が残っています。まず技術面においては、システムの信頼性とセキュリティをさらに向上させる必要があります。遠隔操作による遅延や通信の途絶が発生しないよう、5Gなどの高速で安定した通信インフラの整備が不可欠です。また、サイバー攻撃からシステムを守るための強固なセキュリティ対策も求められます。
一方で、法規制の面でも多くの課題があります。現在、完全自動運転車の導入に向けた法整備が進められていますが、遠隔操作に関する具体的な適用ガイドラインや責任の所在を明確にする必要があります。国や地域によって異なる規制が存在するため、グローバルな標準化も重要なテーマとなります。
これらの技術的・法的課題を解決しながら、遠隔型自動運転システムの信頼性を高め、社会に受け入れられる形で実装することが、今後の大きな目標となるでしょう。この技術が普及することで、交通事故の削減やモビリティの向上、さらには持続可能な社会の実現に貢献することが期待されます。したがって、今後も業界と政府が連携し、技術開発と法整備を加速させることが求められます。