世界中で検討が進んでいる、空飛ぶクルマ。日本政府は、2025年の大阪・関西万博やその後の都市部での活用のみならず、過疎・山間部・離島等の地域の足や災害時の物流・交通手段として次世代空モビリティ(Advanced Air Mobility)の社会実装を目指しています。空飛ぶクルマが実現することで、様々な地域の課題を解決すること、それによってどこにいても豊かな暮らしが実現できることが期待されています。実際に、機体開発や周辺ビジネスの検討に多くの企業が参入し始め、新たなビジネスとして注目されています。
本記事では、次世代航空モビリティに着目し、昨今の世界および日本の動きや更なる革新に向けて必要なものについて解説していきます。
従来までの航空モビリティは、ヒトの移動に主眼を置いていました。今まではクルマが空を飛ぶという考え方を基本として航空モビリティの開発が進められてきたように思います。しかし、2002年に空の産業革命が起こりました。NASAが発表した「Personal Aerial Vehicle(PAV)」の考え方は、一般実用化に向けてモノを含めた移動に注目しています。これは次世代航空モビリティといわれ、1990年代より欧米で政策課題として検討されてきた、「スマートシティ」実現のための最重要手段である都市部交通改革の切り札とされています。PAVは「地上交通を改革するための、手軽に空の利用ができる航空機」として名称も「Urban Air Mobility(UAM)」と表現されるようになり、これが今日では国際標準用語として定着しました。
それでは、次世代航空モビリティの国内外の動向はどのようになっているのでしょうか。
次世代航空モビリティには、現在様々な企業が参入しており、市場が拡大を続けています。まずは、海外の動向から説明します。国の動向として、UAMの市場が最も大きいと予想されるアジア太平洋地域を紹介します。UAMの市場について、中国とインドを除く上位3か国は日本、韓国、シンガポールと予測されており、本記事では日本、韓国、シンガポールにおける政府の動きについて解説します。韓国政府は2025年を目途に金浦・仁川空港とソウルの都心を結ぶ専用航路を開設すると発表しました。これを機に多くの企業が参入競争を展開しており、大手企業も米国と連携しながら機体開発に大きな資金を投入しています。また、シンガポールはアジアで最も早く海外企業が開発したUAMを導入し、専用の離着陸場(Vertiport)建設など社会インフラ整備を開始しました。さらには、アジア最大級のMROを中心とする航空宇宙工業団地を持っており、ここには多くの航空機技術の人材と試験設備、隣接するテストフライト専用空港が整備されています。
また、海外企業の動向について、一部企業の例を挙げて説明します。ここではUber(ウーバー)・Airbus(エアバス)・Boeing(ボーイング)を取り上げます。世界で最初に航空モビリティへ参入した企業であるUberは、自動車・自転車・電動キックボードといった地上モビリティサービスの提供を実施してきましたが、次世代航空モビリティである電動型の垂直離着陸が可能なeVTOLでの空輸も加えた理想的な展開を試みており、2020年より試験飛行を開始して2023年にはサービス実現化を目標としています。また、米国航空製造業の大手であるAirbusの特徴はテクノロジーの高さを生かした機体作りです。2019年には「Vahana」という試験機による7分間飛行に成功し垂直離着陸も実現させ、電動型マルチコプター「CityAirbus」を開発中です。またAirbusでは都市部輸送サービス「Voom」を展開し、スマートフォンアプリにてヘリコプター予約ができるシステムも開始しています。次に、旅客機としても馴染みのあるBoeing社も電動航空機開発の強化に着手し始めています。2019年に電動有人試験機の初飛行に成功し、その成果を生かして他社とのパートナーシップ構築も進めている現状です。すでにKitty Hawkとのエアタクシー分野での連携やポルシェとのeVTOL共同開発も公表しています。また日本の経済産業省と技術協力の合意を締結しています。
次に、日本での取り組みについて説明します。日本では、都市部での送迎サービスや離島や山間部での移動手段、災害時の救急搬送などの活用に向けて開発が進められています。これに向けて2018年に「空の移動革命に向けた官民協議会」が立ち上がり、日本における航空モビリティ産業は明確なフェーズ変化がありました。
実現に向けて特に現在力を入れているのが、経済産業省と国土交通省が中心となり実施している、航空モビリティに関する制度設計です。これに注力している理由は、次世代航空モビリティが社会に受け入れられるためには「安全性」の確保が必要不可欠であり、そのために制度をどのように設計するかが最重要と考えられているためです。制度の検討にあたっては米国のFAA(Federal Aviation Administration)や欧州のEASA(European Union Aviation Safety Agency)とのBASA(Bilateral Aviation Safety Agreement)、つまり各当局の制度を航空モビリティに適用できるように制度設計を進めています。
大阪・関西万博における空飛ぶ車の実現について一つ例を出して説明します。博覧会協会や大阪府・市、運航事業者、ポート運営事業者と連携して、⼤阪・関⻄万博において、遊覧⾶⾏や⼆地点間移動など、空⾶ぶクルマの活⽤と事業化を目指しています。これに向け、博覧会協会・大阪府市等において行われる具体的な運航ルートや離着陸場所の選定に関する調整を実施し、並行して、会場周辺における空⾶ぶクルマ、ドローン、既存の航空機のより安全かつ効率的な運航を実現するための運航管理技術の研究開発を進めます。また、空⾶ぶクルマの飛行に必要な機体の安全、操縦者の技能証明、離着陸場の設置等に関する制度整備や交通管理を行う体制整備等についても進めています。
航空モビリティにはセキュリティ対策も必須であるといわれています。それでは、航空モビリティ革新に必要なセキュリティ対策はどのようなものがあるのでしょうか。
航空モビリティ革新に必要なセキュリティ対策について説明します。まずは、求められるセキュリティ対策事項の整理が必要です。無人航空機分野に関連する法制度への対応や、無人航空機分野におけるハッキングや脆弱性事例を受けた対応、航空機分野における他国の情報セキュリティ関連文書を踏まえた情報セキュリティ対策事項の整理が求められています。
*IPA「IoT 開発におけるセキュリティ設計の手引き」より作成
また、他のIoT製品と同様にリスク分析を実施することで製品の実用化に向けた重要度の高いリスクの洗い出しとそれに応じた対策が必要です。ここで、セキュリティのリスク分析について説明します。フェーズとしては3つに分かれており、Phase1のリスク分析プロセスでは、その中でも5つのステップに分かれています。守るべき資産の検討をし、システムモデルによるリスク発生個所の分析を実施し、守るべき資産に対する想定リスクの明確化を実施し、攻撃シナリオの検討を行い、リスクレベルの検討を実施する必要があります。続いて、Phase2のリスク評価では、リスク基準に基づき、リスク分析結果が受容可能か決定する必要があります。こちらで参照するリスク評価基準については、各事業者において組織の環境を踏まえて決定される可変の値になります。最後にPhase3の対策候補の検討では、リスク評価を踏まえて明らかになった重要度の高いリスクに対する対策候補の検討が必要です。
IoT製品と同様、ネットワークにつながる航空モビリティに関しても安全に利用するための制度整備とセキュリティ対策は必要不可欠です。これにより、日本の航空機製造や新しい運用事業を含めた航空機産業の活性化と、「人・もの」の移動を地上から空に置き換えるスマートシティの実現が期待されています。