温室効果ガスの排出を減らし、全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」に日本を含む世界中の国々が参加し、実現に向けて取り組んでいます。カーボンニュートラル実現の影響は様々な産業に及ぼしており、発電においては化石燃料より再生可能エネルギー(太陽光、風力)を利用した発電、自動車産業では電気自動車(EV)の普及及び2035年からガソリン車の新車販売を禁止するなど、様々な産業で積極的に取り組んでいます。
その中でも注目を集めているのが電力インフラとしてEVを組み込む「V2G」(vehicle-to-grid)です。EVを蓄電池として利用するV2Gは再生可能エネルギーの課題を解決できる技術V2Gについて詳しく説明します。
V2Gは電気自動車のバッテリーとスマートグリッド(Grid)を活用し、電力網インフラとして利用する技術のことで、電力会社の電力系統に接続して電気を相互に利用できる技術のことを意味します。 V2Gと似ている概念としてV2Hがあります。V2Hとは「Vehicle to home」の略語で、電気自動車と家庭で電力を充電・給電する技術です。V2Gと似ていますが、電力をやり取りする対象が違います。
カーボンニュートラルを実現するためには、再生可能エネルギーを使った発電は必須になりますが、重大な課題があります。それは「安定的な発電ができない」ということです。自然エネルギー(太陽光、風力)使うため、従来の発電に比べて不安定になってしまうことが解決すべき課題として残っています。その短所を補うためには、発電した電力を保存しておく大容量の「蓄電池」がどうしても必要になります。しかし、大容量の蓄電池を社会インフラとして構築するのは簡単ではなく膨大な資金が必要になるため、導入検討にも相当な時間がかかります。しかし、電気自動車の登場・普及により、社会インフラとして蓄電池を構築するのではなく、電気自動車を蓄電池として利用する動きが始まりました。
1.電力系統の安定化につながる
カーボンニュートラルを実現するために、世界中で積極的に再生可能エネルギーの発電を取り入れている状況ですが、従来の発電と比べて安定ではないところが課題として指摘されてきました。電力供給が足りない場合、大規模停電が発生する可能性もありますので、需要量に合わせて電力を発電、送電する必要があるあります。しかし、再生可能エネルギーを利用した発電は天候によって発電量が急変するので、需給のバランスを保つことが難しいです。しかし、EVが電力系統に接続しやり取りできるV2Gを導入する場合、このような課題を解決することができます。具体的に説明しますと、EVを蓄電池として利用し、発電量が多い場合はEVに電力を保存しておき、発電量が少ない場合は系統に接続しEVの余った電力を供給することが可能になります。
2.電力企業とEV所有者にメリット
増える電力需要に対応するためには、より多い電力量を送電する設備が必要になります。その送電インフラ構築には多大な費用が掛かりますが、V2Gを導入することで費用を抑えることができ、柔軟に電力需要に対応することができます。また、EV所有者は電力系統に接続して余った電力を売ることで新しい収入源を作ることができます。
3.緊急時、バックアップ電力として利用
電力網に障害が発生したり、災害などの緊急事態が発生した場合、停電になる可能性も高くなります。しかし、V2Gに参加したEVがあれば、家庭や企業、重要なインフラに電力を供給することが可能になり、停電の備えとして活用することができます。
このように、V2Gは電力企業だけでなく、EV所有者にもメリットがあるといえます。では、日本のV2Gはどこまで来ているのか確認してみましょう。
1.平成30年のEVアグリゲーションによりV2Gビジネス実証実験*¹
東京電力ホールディングス株式会社と日立ソリューションズなど7社が参加した実証事業コンソーシアムです。現地実証を行うため、実証サイトを構築してV2G機器の動作検証や制御要件への適合性を確認する実証試験を実施しました。この実証事業では、EVが系統安定化(特にローカル系統安定化)に寄与する可能性が高いと判断し、それに関する制御システムの検証を行いました。今後、本実証試験で得られた成果と課題を踏まえ、オンラインので制御や複数サイトでの同時制御、SOC想定/計画の高度化検討などの実証事業の範囲を広げています。
2.V2G実証プロジェクトの概要について*²
日産自動車と三井物産など、5社が参加した実証プロジェクトでは電力需給バランス調整機能としての実現可能性とEV普及を見据えた新たなビジネスモデル(カーシェア・観光施設、事業所)の構築に関して検証を行いました。V2G実証プロジェクトは系統安定化の検証だけではなく、ビジネスモデルやサービスの開発検討など、多様な場面でV2Gが活用するための検証も行いました。
これから普及率が高くなると予測されているEVを活用する方法として、V2Gを説明してきましたが、まだ完ぺきではないです。V2Gを普及するためにはいくつかの課題を解決しなければなりません。
・EVバッテリーの性能
V2GはEVのバッテリーを蓄電池として使います。当然ながら、充放電が頻繁に発生します。それにより、EVのバッテリーが劣化してしまいます。したがって、バッテリーの寿命に影響を与えることをできるだけ少なくする技術開発が必要です。
・標準化
世界中にある自動車企業は多く、日本にもたくさんのOEMメーカがあります。各々の自動車メーカに合わせたV2G通信方法、プロトコルを開発することは費用や時間がかかるため、標準化が必要になります。
・セキュリティ
V2Gの実現するためにはEVと充放電スタント(電力系統)がお互いにデータ交換する必要があります。また、電気を販売する行為なので決済情報も必要になります。V2Gに使われている情報がが盗まれたら金銭的、社会的な問題につながる可能性が高いため、不正アクセスやサイバー攻撃などに対応するために適切なセキュリティ対策が必要です。
V2Gは、再生可能エネルギーにおける電力供給を手助けする「新エネルギー」として注目を集めています。しかし、現状V2Gの普及には技術開発や標準化など多くの課題残っているのも事実です。また、V2Gの展開はEVの普及が必要ですが、充電インフラ不足やEVのバッテリー(ガソリン自動車に比べ航続距離が短い)など、改善すべき課題が残っています。EVインフラ整備を進めるとともに、電力企業・OEM・EV所有者、V2Gに関わる当該者にメリットがあるビジネスモデルの開発も重要なことだと言えます。
技術開発やインフラ整備も重要ですが、自動車セキュリティも忘れてはいけないです。V2Gを利用するためには、決済情報・個人情報のやり取りが必要になりますので、その情報を狙ったサイバー攻撃への対策も欠かせません。弊社はAutoCrypt PnCというサービスを開発し、V2Gにおけるセキュリティ対策を提供しております。OEMだけでなく、EV所有者・電力網・充電器向けなど、多様なセキュリティソリューションを提供しておりますので、詳しくはこちらをご覧ください。
「参考資料」
*¹ https://sii.or.jp/vpp30/uploads/B_2_2_tepco.pdf
*² https://www.nissan-global.com/PDF/191023-05-j_V2G.pdf